顎顔面の外傷

骨折

あごや顔面の骨の骨折

下顎骨骨折

下顎骨骨折

顔面はいろいろな原因で外傷を受けやすい部位で、上顎骨骨折や下顎骨骨折のほかに頬骨骨折、頬骨弓骨折、鼻骨骨折もみられます。

【原因】

最も多い交通事故をはじめ、作業事故やスポーツ外傷、さらに転倒やけんかなどが主な原因となります。一方、まれに、顎骨(がっこつ:あごの骨)内に生じた嚢胞(のうほう)や腫瘍(しゅよう)により健常な骨が吸収されて薄くなって生じる病的骨折もあります。

【症状】

骨折の部位や程度により、局所症状は異なります。しかし、共通の症状としては、骨折部の痛み、腫れがあげられます。また、出血による皮膚や粘膜の変色や顔面の変形、開口障害、咬合(こうごう:噛み合わせ)の異常とそれに伴う咀嚼(そしゃく)障害などがあげられます。歯の破折や脱臼(だっきゅう)を伴うこともあります。上顎骨骨折では頭蓋底(とうがいてい)骨折を合併することがあり、この場合、脳損傷をおこし、脳脊髄液(のうせきずいえき)の漏出をみることもあります。骨折が上顎洞壁に及ぶと鼻出血を、眼窩に及ぶと眼球突出(がんきゅうとっしゅつ:眼がでっぱること)や視覚障害をきたすことがあります。

全身症状としては、意識の喪失、ショックのほか、鼻や口からの出血などで呼吸困難をおこすことがあります。

治療

重症な場合には、まず生命の維持に必要な全身的な処置や他の部位の外傷を優先的に処置します。顎骨骨折に対しては、まず応急的な処置として出血のみられる場合には止血し、二次的な感染を予防するために抗菌薬、痛みに対しては消炎鎮痛薬を投与します。顎骨骨折の多くは手術が必要です。

手術では、骨折してずれた骨を正しい位置に戻して固定します(整復固定)。整復固定(せいふくこてい)には観血的方法と非観血的方法があります。観血的方法では、手術的に骨折部を露出して整復し、骨折部を金属プレートや吸収性プレートあるいは金属線で固定します。非観血的方法では、骨折部が癒合するまで上下の歯を噛み合わせた位置で上顎と下顎を固定します(顎間固定)。顎間固定(がっかんこてい)の期間は病院や治療法によって異なりますが、通常は数週間です。この間、口は開けられず、食物を噛むことができないため、経管栄養や栄養価の高い流動食を経口で摂取することになります。

歯の外傷(がいしょう)

歯を強くぶつけると、いろいろな外傷をおこします。受傷原因としては、滑って転んだり、階段から転落したり、けんかや交通事故などがあげられます。また、幼児や学童では、遊戯中の転倒や子ども同士の衝突が多く、成人では、硬いものを噛んだことが原因になることもあります。

歯の外傷では治療後、何年もたってから歯根の先に病巣をつくったり、歯根の吸収や動揺をきたして脱落することもあるため、定期的に検診を受ける必要があります。

歯の打撲(だぼく)

歯をぶつけた時など、歯や歯槽骨(しそうこつ)に目立った外傷もなく、単に一時的に歯根膜(しこんまく)の炎症のみをおこした場合をいいます。

治療

安静にしていると、数日から1~2週間で治癒します。多くの場合、痛みを伴うため消炎鎮痛薬を必要とします。

歯の亜脱臼(あだっきゅう)(不完全脱臼 ふかんぜんだっきゅう)

外傷により歯が少し抜けかかったもので、歯根膜の一部が断裂して歯が動揺し、さわると痛みを訴えます。歯根の先端で歯髄(しずい)が断裂し、のちに歯髄壊死(しずいえし)をおこすことがあり、長期の経過観察を必要とします。

治療

細いワイヤや接着性レジンを用いて、短期間、歯を固定します。歯髄壊死の診断には歯髄電気診断器を用います。

歯の完全脱臼(かんぜんだっきゅう)

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歯が歯槽(しそう)から完全に抜けて歯根膜が断裂した状態をいいます。また、歯が抜け落ちた場合は脱落といい、幼児や学童の外傷ではしばしばみられます。

治療

歯を歯槽内に固定することにより、完全脱臼した歯でも助けることができます。また、脱落した歯でも、再植することにより元通りになる場合もあります。このためには脱落歯をできるだけ早くもとに戻すことが重要で、歯を乾燥させないように口のなかに含んだり、牛乳につけたりして歯科医を受診してください。

歯の破折(はせつ)

外傷や咀嚼(そしゃく)によって、歯に亀裂が入ったり、歯が折れたりすることをいいます。硬い食べ物をかんだとき、臼歯(きゅうし)が垂直に割れて痛むことがあります。破折の診断はつけやすいのですが、亀裂の場合は、原因不明の痛みとして扱われることもあるので注意が必要です。

治療

歯冠(しかん)の一部が欠けた場合には、レジンや金属(インレー)でもとどおりに修復します。歯冠が大きく割れて歯髄(しずい)が露出しているような場合には、歯髄を除去(抜髄 ばつずい)し、根管治療を行なった後、歯冠を修復します。歯根が大きく折れたような場合は、保存は困難で通常抜歯になりますが、条件がよければ保存できる場合もあります。

歯の嵌入(かんにゅう)

歯が受傷したときに、歯槽のなかにめり込んだ場合をいいます。本来の位置にもどし、固定すれば多くは保存できます。ただし、後日、歯髄壊死(しずいえし)がみられたなら根管治療が必要となります。

軟組織の外傷

口や顔の軟らかい部分、いいかえれば皮膚や粘膜にみられる外傷の総称です。また、顎骨(がっこつ:あごの骨)の骨折にもしばしば合併します。代表的なものとしては、顔面皮膚のすり傷(擦過傷:さっかしょう)、口唇(こうしん)の裂傷、舌や頬粘膜(きょうねんまく)の咬傷(こうしょう)、軟口蓋(なんこうがい)の穿孔(せんこう)があげられます。

【原因】

転倒、転落、交通事故、スポーツ、けんか、誤って噛む(咬傷)などがあげられます。また、幼児が
箸(はし)などをくわえて転倒した時には口蓋の穿孔をおこすことがあります。

【症状】

共通する症状としては、出血があります。受傷時にはかなりの出血がみられますが、太い血管を直接損傷しないかぎり、圧迫や時間経過とともに止血するのがふつうです。一方、腫れや痛みは時間経過ともに強くなります。交通事故では、傷のなかにガラス片や金属片などの異物が混入していることがあります。知覚神経が切断されると麻痺(まひ)が生じたり、顔面神経を傷つけると顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ:顔の筋肉が動かなくなる)が生じます。時間の経過とともに感染がおこり、傷が汚くなることがあります。

治療

出血している場合には、まず清潔な布やガーゼで傷口を圧迫して止血を行います。そして医師や歯科医師の診察を受け、消毒後、縫合(ほうごう)処置を受けます。傷のなかには異物が混入していることもあるため、縫合の前には精査が必要です。

処置後は、感染を予防するために、抗菌薬を服用する必要があります。感染すると、治癒後傷あとが目立つようになります。土で汚染された傷では、破傷風(はしょうふう)を予防するための処置を要すこともあります。