顎関節の疾患
顎関節は外耳道の直前にあり、下顎はそこを支点として動きます。この関節は単なる開閉運動のほかに、左右の関節で滑走運動も行なつているのが特徴で、これによって顎を上下左右に、自由に動かすことができます 。
顎関節症 (がくかんせつしょう)
顎を動かしたときの痛みや関節部の雑音、さらに顎の運動がスムーズでなく、 ひっかかったような異常な運動をする、などの症状がみられる症候群をいいます。現代のストレス病の一つにも数えられるほど患者数は増えています。
【原因】
ほとんどの場合、過度の開口(あくびなど)や、硬いものを咬んだことがきっかけで発症しますが、真の原因は、噛み合わせの異常や歯ぎしりによって顎関節 (特に関節円板) が傷ついたり、顎の運動に関与する咀嚼 (そしゃく) 筋の連携に支障をきたすことによります。また、背景に精神的ストレスからくる顎関節周囲の異常な緊張が関与していることもあります。
【症状】
女性にやや多く、20歳代と40歳代以降に多くみられます。顎を動かすと顎関節が痛んだり、雑音がしたり、顎関節周囲の筋肉や靭帯 (じんたい) の圧痛など、顎の運動異常を主症状とし、重症になると開口障害や咀嚼障害をひきおこし、首や肩がこったり、腕に症状が出ることもあります。
治療
消炎鎮痛薬(しょうえんちんつうやく)や筋弛緩薬(きんしかんやく)を主にした薬物療法、噛み合わせの調整、各種のスプリント(コンパクトなマウスピース様のもの) による保存療法が主体です。関節円板の位置がずれている時には、徒手的に円板の整位を行い、さらに関節腔洗浄や関節内に液を入れ整位することなどが行われます。筋のマッサージや開口訓練等のリハビリを継続的に行うことも治療法の一つです。
保存療法が奏効しないものに対しては、関節鏡視下剥離受動術(かんせつきょうしかはくりじゅどうじゅつ)や外科的に開放術を行うこともあります。また、噛み合わせのずれが大きい場合には、手術を伴った矯正治療が必要となることがあります。
顎関節脱臼(がくかんせつだっきゅう)
あくびをしたり、歯科治療や気管支鏡検査などの際に大きく口を開けると、関節の運動支点となっている下顎頭(かがくとう)が正常な可動域を越えて、関節から外れて口が閉じられなくなることがあります。これが顎関節脱臼です。いわゆる、あごがはずれた状態です。
脱臼がちょっとしたことでおこり、習慣性になってしまうこともあります(習慣性脱臼 しゅうかんせいだっきゅう)。
【症状】
面長の顔となり、上下の唇が閉じられなくなり、顎関節部に痛みや緊張感がみられます。耳前の顎関節部は陥凹し、その1〜2cm前方が隆起します。
治療
術者があごを動かしてもとに戻します(徒手的整復)。もとに戻した後にすぐに再発することがあるので口が開かないような処置を追加します。はずれることが癖になっている方(習慣性脱臼)には手術をすることがあります。
顎関節強直症(がくかんせつきょうちょくしょう)
関節内部の骨の癒着や関節周囲の靭帯の石灰化(体の組織内にカルシウムが沈着すること)によって、あごの関節が動かなくなる病気です。
関節リウマチに併発したり、先天性の場合もありますが、外傷や感染の結果生じることが最も多いようです。
幼・小児期に発症すると、単に開口障害だけではなく、患側の下顎骨の発育が障害されます。両側性の場合には小下顎症(しょうかがくしょう)を呈します。
治療
顎関節授動術(がくかんせつじゅどうじゅつ)を行います。