口唇裂口蓋裂などの先天異常

外表奇形(がいひょうきけい:目に見える部位の奇形)の中で、わが国では口腔と顎に発生する先天性の形態異常としては、口唇裂(こうしんれつ)や口蓋裂(こうがいれつ)がもっとも多くみられます。さらに顔の一部も裂けている斜顔裂(しゃがんれつ)、横顔裂(おうがんれつ)、耳や指の形態異常を合併した症候群もみられ、その程度はさまざまです。また、舌にもいろいろな異常がみられます。

口唇裂(こうしんれつ)、口蓋裂(こうがいれつ)、
唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)

口唇裂

口唇裂


口蓋裂

口蓋裂

胎児がお腹のなかでしだいに成長するとき、顔は左右から伸びるいくつかの突起が癒合することによってつくられています。しかし、この癒合がうまくいかないと、その部位に裂け目が残ってしまいます。その結果として、唇が割れた口唇裂(こうしんれつ)や、口蓋が裂けて口腔と鼻腔がつながっている口蓋裂が発生します。口蓋裂には、一見、口蓋に裂け目がないように見えても、粘膜下の筋肉の断裂がおきているものがあり、これを粘膜下口蓋裂といいます。また、上顎の歯茎が裂けている場合は顎裂(がくれつ)といいます。

これらの異常はしばしば合併します。口唇裂と顎裂の合併を唇顎裂(しんがくれつ)、顎裂と口蓋裂の合併を顎口蓋裂(がくこうがいれつ)、口唇裂、顎裂さらに口蓋裂の合併を唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)と呼びます。

これらの異常の発生する頻度は、日本人では約500人の出産に1人の割合で、日本人に多い先天異常といわれています。

【原因】

妊娠の初期(顔や口蓋が形成される2~3か月ごろ)に胎児に異常な力が加わったり、母体の栄養障害や精神的なストレス、さらに副腎皮質ステロイド薬や鎮痛剤など形態異常を誘発する薬(催奇性薬剤)を使ったり、風疹(ふうしん)にかかったり、放射線照射を受けることなどが要因としてあげられています。一部では遺伝によるものもあります。また、発生率は高齢出産になるほど高いともいわれています。 しかし、原因は不明なものが大多数を占め7割に達しています。

【症状】

審美的な障害や哺乳(ほにゅう)あるいは摂食障害、また発音障害などがみられます。また手足や耳の形態異常、ヘルニアや心臓の形態異常を合併することもあります。口蓋裂では口腔と鼻腔とが交通しているため鼻咽腔(びいんくう)が食物で汚染され、二次的に扁桃炎(へんとうえん)や中耳炎(ちゅうじえん)をおこしやすくなります。

治療

出産直後から成人するまでの長期間にわたる、一連の治療が必要となります。それには口腔外科、矯正歯科、小児歯科、形成外科、耳鼻咽喉科、小児科、言語治療科、一般歯科などによる総合治療が必要です。

口蓋裂児ではミルクを上手に飲んだり、顎の正常な発育を促すためのホッツ床という装具(プレート)を生後可及的早期に作製し口腔に装着します。

口唇裂を閉鎖する形成手術の時期は、抵抗力のできる生後3~6か月、体重5kg以上が目安とされています。

一方、口蓋裂では言葉を覚え始める1歳半から2歳ごろに口蓋形成術(こうがいけいせいじゅつ)を行なうのが理想的です。手術後は正しい発音ができるように言語治療を行ないます。

手術後も鼻咽腔の閉鎖が不十分な場合は、発音が鼻声となります。このような場合には、スピーチエイドとよぶ補助器具を装着することもあります。

口唇裂、顎裂、口蓋裂の患者は、もともと上顎の発育が不十分なうえに、形成術による術後の瘢痕(はんこん)のため、さらに発育がわるくなっているのがふつうです。このため、上顎の成長が極端にわるく、下顎の前歯が上顎の前歯より前に位置する反対咬合(はんたいこうごう)が必発します。

また、歯胚(しはい:歯の芽)が欠如し、歯が生えてこなかったり、歯並びや噛み合わせもわるいことが多く、矯正歯科治療が必要となります。

小帯異常

舌強直症(ぜつきょうちょくしょう)

小帯異常

舌小帯短縮症(ぜつしょうたいたんしゅくしょう)とも呼ばれ、舌の下にあるすじ状のもの(舌小帯)が太く短いものをいいます。

【症状】

舌の運動範囲が制限され、とくに舌尖(ぜっせん)を上げたり前に出すことが困難となり、発音や哺乳(ほにゅう)、さらに咀嚼(そしゃく)障害をきたすこともあります。

治療

舌小帯を切離して、舌が伸展しやすくする手術(舌小帯伸展術 ぜつしょうたいしんてんじゅつ)を行ないます。聞き分けのよい子であれば、外来で行なえる簡単な手術です。

先天性歯(せんてんせいし)

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出生時、あるいは出生後1か月以内に萌出する歯を先天性歯といいます。下顎前歯部に多く、触れると歯の動揺があります。放置していると自然に脱落しますが、哺乳の障害になるようなら抜歯を必要とします。